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2月にしては肌寒い朝、井原は悩んでいた。モトクロスウェアを着ていくか普段着を着ていくかだ。

MCFAJの開幕戦、コースオーナーとしての挨拶がある。自分をどう見せるかに頭を悩ませていた。同じ仮面夫婦の牧野はモトクロスウェアで来るはずだ。普段着で行けば、ライダーに満点パパぶりをアピールできる、しかも牧野をからかうこともできる。井原は普段着を選んだ。
牧野のMCFAJ参戦が決まって以来、井原は牧野の精神的な支えとなるべく、空いている時間を見つけては事こまかにレースへ臨む姿勢、仮面夫婦、そして愛について指導してきた。しかしその牧野は予選敗退。牧野への死に物狂いの声援もレースと言う勝負の場ではむなしくも届かない。そのことを誰よりもよく知っているのは井原だった。

井原の出場するノービス85ccは41人のライダーが参加する。予選2組で上位の15人が決勝に進む。予測ができない事態が多発するこのスポーツでは、決勝以上に予選のプレッシャーがかかるのは想像に難くないと思う。 |
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ボックスより左5番目の絶好のグリッドを選んだ井原は、ゴーグル位置を直し精神を集中させる。これで気持ちのスイッチを入れるのだろう、いつもの仕草だ。
ホールショット。まるでお手本のようなスタートを決めた井原は後続に5秒の差をつけフープスを抜け6コーナーを立ち上がってくる。しかも3塁側の3連ジャンプを飛んでいるのは井原とウィンダムだけだ。

3周目フープス、トップのまま周回を重ねていた井原に小山が襲いかかる。これで順位を2位に落とした井原だが決して自分のペースを落とさない。
その後も数台のアタックを受けるが、びくともしない。予選通過は確実だ。

午後の決勝直前、フルグリッドに並んだバイクを見て
「この状態、ほんと勘弁してもらいたい。こんなに並んでたら危ないじゃん」と言う井原の姿に将来世界で活躍するライダー姿を想像してうのは私だけだろうか。
(敬称略) |